Dangerous Mind

Dangerous Mind

Black Messiah 利きドラマーコンテスト

2014年末リリースのディアンジェロ・アンド・ザ・ヴァンガードのブラック・メサイア、バンドで来日もしたし(先日サマーソニックに見に行きました)、いまだにほうぼうで話題かと思います。
このアルバムにはクエストラブ、クリス・デイヴ、ジェームス・ギャドソンの3人のドラマーが参加しています。
エストラブとクリス・デイヴの二人は、現在自分が好きなドラム奏者の5本指には常に入る存在なのですが、だったら予備知識無しで音だけで聞き分けられないと嘘ですよね。
というわけでドラム大好き三文楽師の狩生がブラインドテストで誰がどの曲で叩いているのかを当てるコーナー。
普段偉そうなことを喋ってたり、リズムに人一倍こだわりを持ってるようなフリをしていても、所詮私なんてこの程度、という事実を公表する結果になるかもしれません。が、せっかく思い付いたので恥を忍んでやってみようと思います。
前提条件として
エストラブについては生で聴いた事はなくて音源のみで接してます。好きなアルバムは、今パッと挙げるとしたらjay-zのMTVアンプラグド。

こちらはラディッグのプロモーション動画
クリス・デイヴについては比較的最近になって知ったので、CDよりyoutubeで動画を見ている事の方が多いです。ただ最初に書いたように、サマーソニックでのD'angelo and the Vangardとしての一時間半くらいのステージを二日前に体験しています。

クリス・デイヴtrio
ジェームス・ギャドソンに関しては恥ずかしながらそのお名前くらいしか知りません。
きっと知らないうちに様々な音源で耳にしているんだろうなーという、その程度の認識です。
というわけで、以下「Black Messiah」を流しながら

1 Ain't That Easy
スネアの加工感というか、ボトムが膨らんでいる感じがアル・グリーンのlay it down参加時のクエストラブっぽい音色に思えるのでクエストラブ。80年代のスネアのゲートリバーブをかける前の素材の感じというか。あえてシンプルなパターンを人力でやって、それをさらにサンプリングっぽく加工する感じがクエストラブ感かなと思う。
・・と思って調べたら、正解はジェームス・ギャドソン・・。
さっそく全然ハズレ。
ここで、一曲毎に答えを調べていると、途中でいらぬ知恵がついてきてしまいそうなので、以降2〜12曲目まではまとめてテストすることにしました。
2 1000 Deaths
スタジオの隅でマイク一本で収録したドラムをループさせてハットだけ後で重ねたような音。同ベロシティで連打されるようなハットの、あえて抑揚をつけないような感覚はクエストラブっていうよりはクリス・デイヴなのかなと最初思った。
が、クリス・デイヴにしてはリズムパターンに統一感がある(リズムパターンの中の各要素が、パターンのニュアンスを裏切らない、というか。要はフレーズ単位でまとまりがある)のでやっぱり、この曲はクエストラブ。
3 The Charade
キックが8分で連打。シンプルなようで、良く聴くと珍しいリズムパターン。おかずを入れた次の小節のタメの感じや、あえて平坦に叩いているようなオカズ、アクセントのつけ方からクリス・デイヴかなと思う。
この曲は東京のライヴで結構グダグダな部分もあり、そこが面白かったです。(具体的には入りでミスったんだけど、あのメンバーにして、意外とそのミスが最後まで挽回されないまま力で押し切られる感じというか。途中客も置いてけぼりになっていてフロアに困惑の色が浮かんだ時間が確かにありました。
誤解のないように書くと、自分にとってはそういうグダグダ感と、一糸乱れぬアンサンブルのキレや統一感がなぜか共存してしまっているところが、あのバンドのユニークでとても良い部分だと思いました。)
4 Sugah Daddy
キックの音色とリリースの短さ、リズムパターンも基本的に一定で破綻がないのででクエストラブ・・のような気がします。
(クリス・デイヴは敢えてアンバランスな要素をどこかに持ち込んでくる印象有り)
5 Really Love
エストラブだと思うけど、乾いたリムショットに騙されているだけなのか。
でも別にひっかけようと思って叩いているわけじゃないから、クエストラブ。あー、でもハット類の歪み感というか、ビットレートを落とした感じが無いのはクリス・デイヴみたいに思えたりもする。ああー、曲の後半にいくにしたがってクリス・デイヴに思えてきた。やっぱりこのキックのヌルっとした手数の多さはクリス・デイヴなのか。と思ったけど、ギリギリのところでやっぱりクエストラブ。
6 Back To The Future (Part I)
このどこかアンバランスな感じはクリス・デイヴだと思います。毎周頭一拍目にキックが入る直前のゴーストの細かさがすごい。さっきから、その細かいゴースト、意図的にヴァリエーションつけて入れてますよね?それがレコードに針を乗せた時のクリック音みたいに聴こえるんだよなあ。グリッドの細かい外し方というか、シンプルなフレーズを敢えてアンバランスに叩く感覚というか、これはひょっとしてジェイ・ディラ感とでもいうんでしょうか。
あとこのアルバムはベースが8分とか16分の単音をひたすら刻んでいる箇所が結構ある。なんか達人すぎてシド・ヴィシャスのベースラインみたいになってしまっているのかと思う。達人が書きなぐった書も、まったく予備知識なく見ると初心者っぽかったり失敗作っぽく見えることがある。しかし真の芸術家はそのような事を全く意に介さないのである。
7 Till It's Done (Tutu)
冒頭のスネアロールの粒立ち、そのあとの比較的淡々としたハットに対してコントラストを成すキック・スネアのタメてるような、むしろ前にあるような、というか、その両方を狙った場所で狙ってやっている感じ(全体的に後ろとか前とかそういう発想じゃなくて、⚪拍目スネアは前、⚪拍目キックは後ろ、その次の拍はキック前、でもオカズに関してはどっかから引っ張ってきたみたいに全部後ろ、みたいなプログラミングっぽい発想というか感覚)はクリス・デイヴ。
やはりクリス・デイヴの方が拠って立つ発想がよりモダンということなのでしょうか。あえて気持ち悪さというか、ヒューマンエラー感や機械の持つチープさ、一般的にスタイリッシュではないものまでを取り込んで、人力で再現してくるような発想が、そう感じさせる。
その点、クエストラブのドラミングは、殆ど全てグルーヴィーでかっこいい要素だけで構成されている感じがしています。
これはどっちが良い悪いではなくて、本人達の美学の問題としてそういう違いがあるのかなあと思いました。ただクエストラブの方が3つ年上みたいなので、この年代の3年というのは、やはり世代の差もあったりするのかなあ。
8 Prayer
このアルバムでは一番playa playa感がある(ついでに言うとタイトルも似ている)からクエストラブ。キックの感じもクエストラブっぽい。デカいクラップのラフな感じが良い。ハイハットデュレーションの感じや、ちょっと荒れた音色はクリス・デイヴじゃないですよね。
9 Betray My Heart
ライヴではこの曲がすごいよかったなあ。1小節の途中の中途半端な部分でリズムパターンや音色を微妙に変えてきたりするのはクリス・デイヴかな。2000年代のジャズっぽい繊細なハットの音も、やはりクリス・デイヴかなと。冒頭の不穏な感じもなんかジャズ感あるし、これは自信をもってクリス・デイヴでしょう!と言い切りたい。
それにしてもディアンジェロのこういうスペインっぽいというか、フラメンコみたいなフレーズが入ってくる曲って本当他に類のない変わった曲だと思うなあ。ライヴで聴いたVOODOO収録のSpanish Jointも良かった。
10 The Door
このキックはサンプリングというか、ループですよね。2曲目以降名前だしてないしジェームス・ギャドソン?ハットは重ねてるのかな?この曲の口笛メロディの動き方とか、拍子がちょっと余るところとか、ミステリアスだよなあ。playa playaの最後のバースが一周多く思えるのとかも、毎回「何で?」っていう感じというかミステリアスに感じる。
11 Back To The Future (Part II)
このみんなでワイワイやっている感じというか、パーティー時のハコバン感あるドラムはクエストラヴ。ザ・ルーツがJimmy Fallon Showでハコバンを務めている印象もあって、そう言っている。曲は短い。
でもタイトルが6と同じなので、同セッションなのかな。そう考えると途中でドラマーが入れ替わるというのは考えにくいな。
まあでも聴いた印象を優先してクエストラブ。どっちかは合うだろうし。
12 Another Life
このグリッドが細かい感じはクリス・デイヴでしょう。クリス・デイヴは最終拍でのオカズと次の一拍目との間のタメに特徴がありますよね。なんかその瞬間だけ時間軸がちょっと伸びるような独特な(ある種サイケっぽい)感覚がある。そして隙あらば、そのグニャグニャしたタイム感をいろんな箇所に入れてこようとする。それでいてテンポキープは不変。
あと、あえて初心者っぽい感じで力を入れて(腕を硬く、真っ直ぐして)シンバルやスネアを叩く、みたいな瞬間がたまにないですか。それってブライアン・ブレイド外山明さんも良くやってると思うんだけど、ドラマー界には体の動きと一体化したサウンドのムーブメントみたいなものがあったりするのかなあと思う。
ダイナミクスもある箇所で思いっきり付けたかと思えば、他の箇所では全然付けなかったりして、やはりクエストラブよりもアヴァンギャルドな嗜好性をより強く感じる。
エンディングのリタルダンドも、普通はもう少し大げさに付けますよね。このほどほどなリタルダンドで幕が降りることって、このアルバムの一側面を象徴しているんじゃないかな。VOODOOのエンディングはSE込みの実験的なインプロヴィゼーションからアルバム全体の走馬灯みたいなリバース音で終わるんだけど、それに比べるとやっぱりリラックス、というキーワードを新作には感じます。というわけでクリス・デイヴ。
以上をまとめると(Q・・クエストラブ、CD・・クリス・デイヴ、J・・ジェームス・ギャドソン)
1 Q ❌ 正解はJ
2 Q 
3 CD
4 Q
5 Q
6 CD
7 CD
8 Q
9 CD 
10 J
11 Q 
12 CD 
という回答になりました。




そして答え合わせをした結果・・・・今、自分は愕然としています。
もう、本当に、全っ然合ってない!!ドラえもん全話でのび太が受けた全テストの平均点以下くらいしか点がとれてない。
これを発表すると元々無い信用がいよいよ底をつきそうだ。上で滔々と述べている持論を読み返すと、顔から火が出るほど恥ずかしいな。
まあ、正答はでここで( http://bmr.jp/hotspot/126812 )勝手に調べてほしいのですが、私は自分の良い加減さや勝手な思い込みの数々に今ショックを受けています。
願わくば、答えを知る前にこれを読んだ人にも、一度ブラインドテストしてみてほしいです。
(そして自分より外してほしい。)
まあ負け惜しみだけど、事実を知ることより、それについて自分の頭で考える方がよっぽど自分の役には立つという考え方もあるのかなと思います。
色んな音楽ライターの人とかがこのアルバムについて書いたのを目にします。
例えば「冒頭一音目から殺気をはらんだドス黒い音塊が・・・」みたいな印象論的な物言いに遭遇すると、確かにそういう面はあるのだろうけど、本当にちゃんと聴いてる?という違和感を感じなくもありません。あと歌詞のメッセージ性やリリースのタイミングについてもよく語られてる印象があるけど、肝心の演奏についてはなぜかあまり言及されてない印象。というか、「黒い」、くらいしか言及がなかったりする。でも黒いって何だよ!!
フルアナログでの録音プロセスについてもよく書かれてるけど、あの音って果たしてそんなにすごくアナログっぽいのかなあ?と思ったりもする。
まあだからと言って、ライターでも何でもない自分がしゃしゃり出て来て、ここで一人自爆しても何の意味もないわけですが。
結果には大変ショックを受けたけど、なかなか面白い遊びではあったので、オススメします。
ドラマーの方や、ドラム好きの方、リズム感について自信のある向き、ディアンジェロは勿論、クリス・デイヴやクエストラブのファンの方には特に、この夏チャンレンジしてみて欲しいです。