Dangerous Mind

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Steely Dan ”Deacon Blues” の分析

今日は自分の最近大好きな曲、STEELY DANのDEACON BLUESの分析をします。
この曲では歌詞とコードの作り出す物語の重層性に着目できればと思います。

基本的に、この曲はミュージシャンに憧れる地方都市の青年の話のようです。
これから一旗揚げようと酒場か何かで息巻いている感じの。
まず一旦歌詞とコードを書き出します。

Key=C
[Intro]
Cmaj7 G on B / B♭maj7 F on A /
Dmaj7 A on D♭ / Cmaj7 G on B /
E♭maj7(3/4) / E7 #9(6/4) /


[1番 VERSE]
G6 / F6 / G on A F6 / F6
This is the day Of the expanding man
今日は、野望に満ちた男のための日
G6 / F6 / G on A D9 / D
That shape is my shade There where I used to stand
今までいた場所には自分の影だけを残して
Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / B♭13
It seems like only yesterday I gazed through the glass
 E7 / B7 / B7-5 E7 / B7-5 E7
At ramblers Wild gamblers That's all in the past
ガラス越しにゴロツキやギャンブラーを眺め、ただ憧れるだけの日々は昨日でもう終わりさ

G6 / F6 / G on A F6 / F6
You call me a fool You say it's a crazy scheme
君は僕のことをバカだと、そんなの途方も無い話だと言うね
G6 / F6 / G on A D9 / D
This one's for real I already bought the dream
それはその通り、でも僕はもう夢に賭けてしまった
Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / Gm7 F#6 /
So useless to ask me why Throw a kiss and say goodbye
だから理由なんて聞いたって無駄だよ キスしてお別れしよう
Fmaj7 / C2onE / D9 / F on G
I'll make it this time I'm ready to cross that fine line
今度こそやってやる 一線を越える覚悟はできているんだ


[CHORUS]
Am7 / Em7 / Dm7 / Cmaj7 /
Learnt to work the saxophone I, I play just what I feel
サックスの吹き方を学ばなきゃ 感じたままに楽器を吹くのさ
B♭maj7   /  Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
Drink Scotch whiskey all night long
一晩中スコッチウイスキーを飲み明かし
C2 on E Fmaj7 /
And die behind the wheel
ハンドルを握ったまま死ぬ
Am7 / Em7
They got a name for the winners in the world
世間では勝者だけが名声を得る
Dm7 / Cmaj7 /
But, I want a name when I lose
でも僕は敗れ去ることで名が欲しいんだ
B♭maj7 / Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
They call Alabama, "The Crimson Tide"
アラバマ大のフットボールチームは「クリムゾン・タイド」と呼ばれているね
C2 on E Fmaj7 /
Call me Deacon Blues
僕のことは「ディーコン・ブルース」と呼んでおくれ
Am7 / Em / Dmaj7 A2on C# / Cmaj7 G2 on B / E♭maj7 / E7#9 /
(Deacon Blues)


【2番】
G6 / F6 / G on A F6 / F6
My back to the wall  A victim of laughing chance
背水の陣ってやつさ  格好の笑いものだよね
G6 / F6 / G on A D9 / D
This is for me The essence of true romance
でもそれこそが僕にとっては、真のロマンに至る道筋なんだ
Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / B♭13
Sharing the things we know and love  With those of my kind
似たもの同士で、知識や愛を分け合い
 E7 /
Libations
秘蹟のように酒を浴び
B7 /
Sensations
熱に浮かされ
B7-5 E7 / B7-5 E7
That stagger the mind
どうにも心の焦点は定まらない
G6 / F6 / G on A       F6   / F6
I crawl like a viper  Through these suburban streets
蛇のように裏通りを徘徊し
G6 / F6            / G on A D9  /  D
Make love to these women  Languid and bittersweet
娼婦と恋に落ちるような 自堕落でほろ苦い生活
Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / Gm7 F#6 /
I'll rise when the sun goes down  Cover every game in town
陽が沈む頃目覚め    この街のことなら何でも知ってる
Fmaj7 / C2onE / D9 / F on G
A world of my own I'll make it my home sweet home
この世界は俺のものさ だからこの世界を甘い故郷の思い出で満たしてやるんだ


【CHORUS】
Am7 / Em7 / Dm7 / Cmaj7 /
Learnt to work the saxophone   I, I play just what I feel
サックスを習わなきゃ   感じたままにプレイするんだ
B♭maj7   /  Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
Drink Scotch whiskey all night long
一晩中ウイスキーを飲み明かし
C2 on E Fmaj7 /
And die behind the wheel
そしてハンドルを握ったまま死ぬ
Am7 / Em7 /
They got a name for the winners in the world
この世界では勝者が名を残すという
/ Dm7 / Cmaj7 /
But, I want a name when I lose
でも僕は敗北することで名を得たいんだ
B♭maj7 / Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
They call Alabama, "The Crimson Tide"
アラバマ大のフットボールチームを「クリムゾン・タイド」と呼ぶなら
C2 on E Fmaj7 /
Call me Deacon Blues
俺の名は「ディーコン・ブルース」さ
Am7 / Em / Dmaj7 A2on C# / Cmaj7 G2 on B / E♭maj7 / E7#9 /
(Deacon Blues)

〜sax solo〜


【3番】
G6 / F6 / G on A F6 / F6
This is the night of the expanding man
今日はそう、これから成り上がっていく男の日
G6 / F6
I take one last drag
これが最後のドラッグ
G on A D9 / D
As I approach the stand
そろそろ行き止まりに来ているって事だな
Fmaj7 / E7♭9
I cried when I wrote this song
実はこの曲を書き上げた時泣いてしまった
/ Am7 / Gm7 F#6 /
Sue me if I play too long
俺のソロが長すぎたら言ってくれ
Fmaj7 / C2onE /
This brother is free
何をやったっていいさ
D9 / F on G
I'll be what I want to be
俺は俺でやりたいようにやる

【CHORUS】
Am7 / Em7 / Dm7 / Cmaj7 /
Learnt to work the saxophone   I, I play just what I feel
サックスを習わなきゃ   感じたままにプレイするんだ
B♭maj7   /  Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
Drink Scotch whiskey all night long
一晩中ウイスキーを飲み明かし
C2 on E Fmaj7 /
And die behind the wheel
そしてハンドルを握ったまま死ぬ
Am7 / Em7 /
They got a name for the winners in the world
この世界では勝者が名を残す
Dm7 / Cmaj7 /
But, I want a name when I lose
でも俺は敗北することで名を得たいんだ
B♭maj7 / Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
They call Alabama, "The Crimson Tide"
アラバマ大のフットボールチームを「クリムゾン・タイド」と呼ぶなら
C2 on E Fmaj7 /
Call me Deacon Blues
俺の名は「ディーコン・ブルース」さ
(Deacon Blues)

ここまでで、既に疲れた・・


まずイントロ。キーはCメジャー。
冒頭からちょっと厄介ですが。

[Intro]
Cmaj7 G on B / B♭maj7 F on A /
Dmaj7 A on D♭ / Cmaj7 G on B /
E♭maj7(3/4) / E7 #9(6/4) /

ルートがド→シ→シ♭→ラと4音下降した後、またレ→レ♭→ド→シと同様に下降する。
このイントロを、歌い出し前の主人公の心象風景の描写だと仮定すると前半2小節
Cmaj7 G2 on B / B♭maj7 F2 on A /

後半2小節
Dmaj7 A2 on D♭ / Cmaj7 G2 on B /
は対になっていて、同じ夢の中で少し場面が変わっただけ、くらいの違いというか。
例えばシーンが室内から外に変わった、というくらいの違いかなと思います。
すべてのコードがダイアトニックなわけではないが、ルートの半音の流れに沿って、B♭maj7やA2 on D♭といった、それほど違和感の無い、ダイアトニックに近い構成音のコードが使用されています。
それに対して5小節目以降の
E♭maj7(3/4) / E7 #9(6/4) /
このE♭maj7は先の4小節とは違い、明らかに転調感のある、キーから離れたコードです。
さらに次のコード、半音上のE7 #9はAmのV7だが、E♭maj7からの流れで考えると、その前の行で半音下降を二度繰り返しているだけに、ここで半音上がって、拍子も変わるのは明らかに、主人公の心に別の要素が芽生えるようなイメージがある。
この別の要素とは後述する、主人公の持つ馬鹿げたような「野心」「野望」です(そういう「野心」な感じのエレピの駆け上がりも入る)。
で、歌が始まります

[Verse]
G6 / F6 / G on A F6 / F6
This is the day Of the expanding man
今日は、野望に満ちた男のための日
G6 / F6 / G on A D9 / D
That shape is my shade There where I used to stand
今までいた場所には自分の影だけを残して


expanding=拡張していく。これから成り上がっていく男。逆に言えば、今はまだその準備段階ということで、これから故郷を捨てて都会に出て一旗揚げようというわけである。
歌い出しからV6で始まります。少し先回りしていうと、イントロでImaj7が使用された後、この曲はサビの中盤まで、一度もIのコードが出てきません。
VImが一度出てくるだけでIIImすら出てこない。ほぼ、ドミナントサブドミナント、それから代理コードだけで成り立っている曲であると言える。
この事が主人公の吐く言葉の、地に足が着かないような、宙ぶらりんな印象を見事に演出していると思います。

次の段

Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / B♭13
It seems like only yesterday I gazed through the glass
 E7 / B7 / B7-5 E7 / B7-5 E7
At ramblers Wild gamblers That's all in the past
ガラス越しにゴロツキやギャンブラーを眺め、ただ憧れるだけの日々は昨日で、もう終わりさ


ここで、主人公が憧れているのは、街で見かけるアウトロー達だということがわかる。
I gazedといったところで一瞬だけトニックのAm7が出るところは本当にニクいと思う。過去の自分、荒くれ者をただただ眺めて憧れるだけだった自分を回想する、その一瞬にそれまで、歌い出しから一度も使わなかったトニックのVImを使う、ということ。
実際この一瞬はちょっとホッとする感じというか、振り返る感じが出てないでしょうか?
また、ここ

E7 / B7 / B7-5 E7 / B7-5 E7
At ramblers Wild gamblers That's all in the past

も非常に注目に値する。
AOR / クロスオーバー調の楽曲の中でやたらと古めかしいオールドジャズめいたコード進行である
III7 / VII7 / VII7-5 III7 /
を執拗に繰り返し使っている。
ここはこの主人公が今では有りもしない、過去の(1940年代とかの)古めかしい映画に出てくるようなギャングや、ジャズメンたちに憧れている事、主人公の持つアナクロニックな嗜好を暗に示しているのではないかと思う。
つまり、今では失われてしまった、ノスタルジックなものとして、ramblers、gamblersを出している。
だから次の
That's all in the past
は、
「憧れてるだけの日々はもう終わりだ」
って言ってるようにも
「過去に栄えしramblers、gamblers」
と言ってるようにも思える

そのまま先頭に戻り

G6 / F6 / G on A F6 / F6
You call me a fool You say it's a crazy scheme
君は僕のことをバカだと、そんなの途方も無い話だと言うね
G6 / F6 / G on A D9 / D
This one's for real I already bought the dream
それはその通り、でも僕はそのバカげた夢に賭けてしまった


これは故郷に残る彼女にやめなよ、とか言われてるんでしょう。
バカな事言ってないで、地道にやっていきましょうよ、と。

Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / Gm7 F#6 /
So useless to ask me why Throw a kiss and say goodbye
理由なんて聞いたって無駄だよ キスしてお別れしよう

ここの4小節目のGm7はVerse2の同箇所のB♭6と構成音は同じですが、ルートがB♭なのと、Gなのとではだいぶ雰囲気が変わります。
やっぱりVERSE2の時点では主人公の独白なんでしゃっちょこばっているというか、肩に力が入っているのに対して、ここは恋人に語りかけるシーンなので、少し甘く、ルートも語りかけるようにA→G→F#→F→E→Dと下降していきます。

Fmaj7 / C2onE / D9 / F on G
I'll make it this time I'm ready to cross that fine line
今度こそやってやる 一線を越える覚悟はできているんだ

で、サビ

[CHORUS]
Am7 / Em7 / Dm7 / Cmaj7 /
Learnt to work the saxophone I, I play just what I feel

ここからサビなんですが、なんだか様子がおかしい。
サビだというのに、これまでのかなり凝った印象のコード進行が急にダイアトニックだけの
[VIm / IIIm / IIm / Imaj7 ]
というシンプルな進行に変わります。
これは、コードの緊張感という意味では明らかにトーンダウンしている。
歌詞に目をやると
「サックスの吹き方を学ばなきゃ 感じたままに楽器を吹くのさ」
!!何と主人公はこれからサックスの練習を始めるというのか?!
このサビに至るまで、これだけ散々吹かしておいて、実は楽器ビギナーかい!みたいな。
どうやら主人公の持つ野心というのは、本当に純粋な野心というか、あまりに漠然としていて取り留めのつかない野心である事が、VERSEとは対照的なダイアトニックの平易な音使いに関連付けされつつ、ここで明らかにされます。
ここはコードは平易である必要があるのです。

B♭maj7   /  Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
Drink Scotch whiskey all night long
一晩中スコッチウイスキーを飲み明かし
C2 on E Fmaj7 /
And die behind the wheel
ハンドルを握ったまま死ぬ

一晩中飲み明かした帰り道に、飲酒運転で事故って死ぬという事でしょうか。
あまりにステレオタイプに嵌った破滅願望に、この男は囚われているようだ。
Drink Scotch whiskey のところの
B♭maj7 は浮遊感のあるコードというか、再び地に足がつかなくなった、主人公がまた、取り留めのない夢想に入っていくような印象を演出していると思います。

Am7 / Em7
They got a name for the winners in the world
世間では勝者だけが名声を得る
Dm7 / Cmaj7 /
But, I want a name when I lose
でも僕は敗れ去ることで名が欲しいんだ

このラインは、そんな主人公のダメっぷりを見せつけられた直後でも、それでもどうしてもグッと来てしまう部分ではある。
もちろんグっとこない人もいるだろうけど。
敗残者の美学とでも言うべきか。
自分はここで毎回「ああそうだよね、確かに」と思っちゃいます。

B♭maj7 / Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
They call Alabama, "The Crimson Tide"
アラバマ大のフットボールチームは「クリムゾン・タイド」と呼ばれているね
C2 on E Fmaj7 /
Call me Deacon Blues
僕のことは「ディーコン・ブルース」と呼んでおくれ

ここで世間的な勝者の比喩として大学のフットボールチームが出てくるのはアメリカっぽいというか、正直感覚としてよくわからない部分もあるんだけど、まあそういうものなんでしょう。将来を約束されたエリートたちで構成された常勝軍団、みたいなイメージなのかな。
で、そいつらが通称「クリムゾン・タイド」なら、俺は「ディーコン・ブルース」だ、と。
このDeaconはよく分からないんだけど、物の本によるとデューク・エリントンのデュークみたいなものだということらしいです。名前につける、ちょっとふざけた敬称というか、敬称のニックネーム的使用というか。
ザ・男爵ディーノみたいなものなんでしょう。
あと、Deacon Devilという愛称の、「クリムゾン・タイド」とは対照的に物凄い弱いフットボールチームがあって、それに掛けてある、みたいな事が動画内のサックスソロ時にテロップで出てきますね。
で、その後 女性コーラスがその(おそらくそんなにイカしてないであろう)通り名「ディーコン・ブルース」をコーラスする

Am7 / Em / Dmaj7 A2on C# / Cmaj7 G2 on B / E♭maj7 / E7#9 /
(Deacon Blues)


ここのBluesっていう瞬間のEmの響きのなんとも言えない切なさはどうでしょうか。
楽器が弾ける人はぜひ試して欲しいんですが、ここが
Am7 / Em
(Deacon Blues)
である時と
Am7 / C
(Deacon Blues)
あるいは
Am7 / Am7
(Deacon Blues)
または
Am / Ammaj7
(Deacon Blues)
どれでも音としては成り立ちます。
そして、この愛称「Deacon Blues」を繰り返す時の意味がそれぞれ、明らかに変わってくる。
自分の印象だと
Am7 / C
(Deacon Blues)
少し未来に希望を見出している
Am7 / Am7
(Deacon Blues)
かなり深刻に悲観している
Am / Ammaj7
(Deacon Blues)
高らかに宣言した直後にナイーブに、自身の中に入っていくような感じ
で、実際のコードの
Am7 / Em
(Deacon Blues)
これは、ちょっと他者の視線が入ってくるというか、この男の話を一つの物語として外部から眺め、叙述している存在(=作詞家)を仄めかしている感じがします。
受け取る印象はもちろん人によって様々だと思いますが、この四通りで歌詞の印象が変わってくるのは明らかだと思います。こういう所が本当に面白いところだと思います。
で、2番にいく。
再び主人公の独白が続く

G6 / F6 / G on A / F6
My back to the wall  A victim of laughing chance
背水の陣ってやつさ  格好の笑いものだよね
G6 / F6 / G on A / D9
This is for me The essence of true romance
でもそれも俺にとっては、真のロマンに至る道筋なんだ
Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / B♭13
Sharing the things we know and love  With those of my kind
似たもの同士で、知識や愛を分け合い
 E7 /
Libations
秘蹟のように酒を浴び
B7 /
Sensations
熱に浮かされ
B7-5 E7 / B7-5 E7
That stagger the mind
どうにも心の焦点が定まらない

Libationsは宗教的な儀式というニュアンスがあるらしく、ここでも、まだサックスの吹き方すら知らない主人公が、ミュージシャンになるには、まず儀式として仲間と一緒に酒を浴びるように飲まなくてはならないのである、みたいな強迫観念にとらわれている様子が、古めかしいコードの響きとともに提示されています。

G6 / F6 / G on A       F6   / F6
I crawl like a viper  Through these suburban streets
蛇のように裏通りを徘徊し
G6 / F6            / G on A D9  /  D
Make love to these women  Languid and bittersweet
娼婦と恋に落ちるような   自堕落でほろ苦い生活
Fmaj7 / E7♭9    / Am7 / Gm7 F#6 /
I'll rise when the sun goes down  Cover every game in town
陽が沈んでから目覚め    この街のことなら何でも知ってる
Fmaj7 / C2onE / D9 / F on G
A world of my own I'll make it my home sweet home
この世界は俺のものさ だからこの世界を甘い故郷の思い出で満たしてやるんだ

もうこの辺はだいぶ酔いがまわっている感じというか。
結局捨てたはずの故郷のことも懐かしがってるし。
この時点までは、地方のバーで冴えない、誇大妄想気味のミュージシャン志望の若者が酔っ払ってクダを巻いている(そして結局何もしない)様子の曲としても説明可能ですが、それだとやはり冷笑的に過ぎる感じはする。

で、
[CHORUS]
ここは繰り返しです。

Am7 / Em7 / Dm7 / Cmaj7 /
Learnt to work the saxophone   I, I play just what I feel
サックスを習わなきゃ   感じたままにプレイするんだ

B♭maj7   /  Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
Drink Scotch whiskey all night long
一晩中ウイスキーを飲み明かし
C2 on E Fmaj7 /
And die behind the wheel
そしてハンドルを握ったまま死ぬ
Am7 / Em7 /
They got a name for the winners in the world
この世界では勝者が名を残す
/ Dm7 / Cmaj7 /
But, I want a name when I lose
でも俺は敗北することで名を得たいんだ

B♭maj7 / Am Am on G / Am on F# Fmaj7 /
They call Alabama, "The Crimson Tide"
アラバマ大のフットボールチームを「クリムゾン・タイド」と呼ぶなら
C2 on E Fmaj7 /
Call me Deacon Blues
俺の名は「ディーコン・ブルース」さ

(Deacon Blues)


で、ここから間奏でサックスソロが入ります。
ここで物語の視点が多層的になってくる。
このサックスは主人公の心の中で鳴っている、ミュージシャンになった未来の自分が心のままに吹いている演奏なのだろうか。
それとも、主人公は実際にサックスプレイヤーとなり、この曲はそんな自分の過去であり、人生の分岐点とでも言えるような日々を追想する曲となるのか。
で、VERSEに戻り

This is the night of the expanding man
今夜はそう、これから成り上がっていく男のための夜
I take one last drag
これが最後のドラッグだ
As I approach the stand
そろそろ行き止まりに来ているって事だな

Fmaj7 / E7♭9    
I cried when I wrote this song
実はこの曲を書き上げた時泣いてしまった
/ Am7 / Gm7 F#6 /
Sue me if I play too long
俺のソロが長すぎたら言ってくれ

この3番の歌詞の流れを見ると、どうやら語り手は最終的にミュージシャンになっているようなのである。そして、この曲を作ったのも語り手であるらしい。
ということで、ここでフェイゲン=ベッカーの自伝的述懐という要素が新たに加わってくる。
しかし、
「この曲を書き上げた時泣いてしまった」
とはどういう意味なのだろう。
ナイーブな、青年期の心境を思い出して泣いてしまったというのか。
それとも、音楽云々を越えて、とにかくひたすら破滅的な生き方や死に憧れ、失うものなど何もなく裏通りをうろつく日々、その時に持っていた何かしらの純粋なるものが、今の自分には失われてしまった事に気づいて涙を流したのではないだろうか。
元々ドナルド・フェイゲンウォルター・ベッカーはジャズ・ミュージシャンに憧れるNYかそこらのティーンエージャー同士として知り合ったと聞いています。
しかしこの二人は適性として、「思うがままにプレイする」ような、例えばチャーリー・パーカーのようなタイプのミュージシャンにはなれなかった。
これはならなかったのではなく、なれなかったのだと思う。
そのことはドナルド・フェイゲン「スノー・バウンド」におけるウォルター・ベッカーのギターソロを聴けば端的に分かると思う。

※3:40くらいからギターソロ
だから次の2行が生きてくる。
青年期に憧れた破滅的なジャズ・ミュージシャンの夢とは決別して、それでも主人公はこのように歌った。

Fmaj7 / C2onE /
This brother is free
何をやったっていいさ
D9 / F on G
I'll be what I want to be
俺は俺でやりたいようにやる


ここ、超良くないですか?
ミュージシャン志望の口先だけの青年を皮肉るような内容

でも、実はそれって昔の俺らの事なんだ

その時感じた気持ちは今でも決して忘れてない
自分のなりたいものにはなれなかったが、でも俺らは俺らのやり方でいくぜ 

みたいな。
まあかなり恣意的に解釈してます。
「ソロが長過ぎたら言ってくれ」っていうところとは少し意味が噛み合わなくなってきますし。
あくまで個人的に、こういう風に捉えると凄くグッとくる、という話です。
歌詞の内容的には一回ここで終わってる感じですが、音楽的な要請で、もう一回コーラスを繰り返して終わり。
この繰り返し、 Deacon Bluesという称号(ステージネーム)に対する思い入れが、1番、2番、3番を経て、自分の中でも高まっているので、相当カタルシスがあります。

[CHORUS]
I learnt to work the saxophone
I, I play just what I feel
Drink Scotch whiskey all night long
And die behind the wheel
They got a name for the winners in the world
I, I want a name when I lose
They call Alabama, "The Crimson Tide"
Call me Deacon Blues
(Deacon Blues)

という。
超長くなったけどまだ読んでる人はいるのだろうか・・・
ポイントとしてはスティーリー・ダンの曲ってすごくギクシャクして聴こえることだと思います。1940年代、50年代のミュージカルソングみたいなスムーズさが無い。
これはもちろん意図的にそうしているんだろうけど、何でなんだろうなと思ってたんですが、この歌詞にその答えをうっすら見出した気がしました。
この曲は歌詞だけでももちろんすごい作品なんだけど、それが音楽に乗せて歌われることで、これだけ複雑で多層的な意味を獲得することができるんだ、という好例なんじゃないかなと思い、長々取り上げてみました。そういうことは歌詞のある音楽にしか出来ない事だと思うので。
訳詞については
http://www.geocities.jp/lionheart_katebush/SecondArrangement/SecondArrangement/deaconblues.htm
をだいぶ参考にしました

あとこの本

スティーリー・ダン Aja作曲術と作詞法

スティーリー・ダン Aja作曲術と作詞法

ということで最後まで読む人いない説ありますが、またやります。
楽器できる人はコードを追ってもらえると、少しは面白く読めるんじゃないかと・・
次回以降取り上げたい曲
MAXINE (donald fagen)
Pannonica (Thelonious Monk)
Alone Again (Gilbert O'Sullivan)
A flower is a lovesome thing (Billy Strayhorn)
How Incensitive (Antonio Calros Jobim)
Moon River (Henry Mancini)
Desafinado (Antonio Calros Jobim)
Corcovado (Antonio Calros Jobim)
How High the moonとかもやってみたいな