Dangerous Mind

Dangerous Mind

SXSW最終日。昼頃起きだして買物に。コングレス沿いにはレコードショップや、古着屋、南アメリカの骨董品屋などがあって、飛行機が揺れた時に祈る神様を探していた俺は、メキシコ産の石の十字架をゲットする。これで一安心だ。同じ通りで狂った着ぐるみ屋も発見。ゴキブリの着ぐるみ、酩酊したミニーマウス、思い出し書きのミッキーマウスなど。夕刻、楽しみにしていたjon Mclahlinを見にコンベンションセンターへ。ステージ上にはギターアンプにグランドピアノ、ベースアンプ、ドラムセットが置いてあってバンド編成での出演だと知り、メンバーは果たして誰なんだろう、と否応なく期待は高まるのだけれど、定刻通りに登場したのはベンフォールズ5みたいな毒にも薬にもならないピアノロックバンドだった。周囲に口を開けてポカンとしている人多数。うちらも呆気にとられてついつい一曲通しで聴いてしまう。我にかえって受付で「伝説的なジャズギタリストのジョン・マクラフリンを見に来たのだけれど」と尋ねたら、「これはジョン・マクラフリンという名前の別バンドだ」と言われる。膝がカクっとなる。時々そういう紛らわしい名前で活動したい欲求にとらえられる事はあるけど、今回みたいに外国の人が間違えて聴きにきたら申し訳ないから、やっぱりそういうのはやめよう、と思う。まあ本当に同姓同名の人がリーダーのバンドなのかもしれないけど。
その後、街のはずれにある教会でjandekを見る。バンド編成でのダークなサイケ。これは素晴らしかった。その後見たのはmeat puppets。高校生の時からずっと好きなバンドで念願のライヴだったが(来日しないだろうし)、一曲見たら充分な感じだったのですぐに会場を出て、もう一度教会に戻ってトム・モレロの弾き語りプロジェクトであるThe Nightwatchmanを見る。これは良かった。無茶苦茶良かった。フォークギター一本での簡素な弾き語りで、言葉が殆どわからないのに、物凄くメッセージが伝わってくる。ただ歌うべき事を歌っているだけだけど、歌うべきことを驚くほど沢山持っていて、ライヴの最初から最後まで不要な言葉は一つも無いように感じられた。
これまでの旅で自分たちが接触したアメリカは、裕福で、人も優しくて、楽しくて、便利で、生活していて何一つ不満は無く、それは世界最強の国の、なおかつ比較的アッパーな階層ばかり見て来たからなのだろうけれど、同時に、毎回食べきれないほど出てくる食事や、広い家や、ゆとりのある生活は、世界的に見れば大変な不均衡の上にしか成り立たないものだろうと思った。しかし、こんなユートピアみたいな環境ではその事に気付く必要がないから(物質的な豊かさもあるけれど、何といってもそこに住んでいる人たちがとても魅力的で優しいのである)、それだけにテロのような手段がメッセージとして選択されてしまう事も起こり得るよな、と考えていた。でもトム・モレロは、自分が好きな音楽の力を信じて、とても楽しくて、感動的な手段で、自分の信条を訴えかけようとしているようだった。このアメリカで、そういう事をするのは物凄いパワーが必要で、なおかつ、とても困難で、でもそれだけに楽しい事ではないのだろうか、と思った。彼はそれを青筋立てず、アーティスティックにも成りすぎず、でも尊厳は保って、最終的にとてもシンプルな音楽のかたちで行っていたのだった。そういった事柄が、言葉の壁を越えて伝わってきて、見ていて泣いてしまった。周りの人も結構泣いていた。ライヴを見て涙が出たのは、数年前に見たムラツ・アスタケのエチオピアンオーケストラ以来だな。スタンディングオベーションで幕。
その後、地元のグルーポ・ファンタズモを見る。良いバンドだけど前日ギャラクティックを見たばかりなので、どうしても演奏がゆるく感じる。途中退場して上原ひろみを見に行くが、彼女は出演キャンセルということで、同じく彼女を見に来たヒューストン出身のオッサンと少し話し、オッサンはストゥージズを、俺らはメキシコナイトのトリの「パンダ」という全くもって謎のグループを見るために、また大通りに戻る。途中、10分でCGみたいに細かい宇宙の絵を書くアーティストのライヴペインティングを見てから(超テクだった)、メキシコナイトの会場に行く途中、野外テントからかっこいい演奏が聴こえてきたので立ち寄ったらantiballasのシークレットライヴだった。三日前に見逃していたのでラッキー。ブラス隊やキーボードの切れ味がシャープで、楽曲のセンスも本当に素晴らしく、CDよりライヴの方が10倍良く思えた。NYの良さみたいなものが伝わってくる(彼らはNYのバンド)素晴らしいライヴで、結局最後まで見てしまい、メキシコナイトトリのパンダが何だったのかは確認できず。(見に行った岡本さんの話によると、フロントマンが色男の軽めのロックバンドだったとのこと。それで「パンダ」とは一体どういうことなのか、ますますわからず。)
深夜バスにて帰宅。運転手が三日前と同じ人で、うちらの事を憶えていてくれて降車駅を教えてくれた。この日も相変わらずデカイ声でずっと客と喋っていて、とても面白い。

トム・モレロとスラッシュとペリー・ファレルのセッション。見逃したけどこんなんもやってたらしい。