Dangerous Mind

Dangerous Mind

シンクロニシティと熊とセブンイレブンのおっさん

先週末、仕事上のわけのわからないトラブルというか、不幸な話の行き違いが持ち上がり、せっかく作った出来の良い曲が半分も使われず、乱暴に、曲の途中から、何の前後のつながりも映像との関連性もないような別の曲につながれる事になってしまって、とても気分が落ち込み、ふてくされていた。
(今アップされたのを見たけど、本当に音楽のことが何もわかってない、若い頃クリエイティブな事がしてみたかったけど能力も努力も足りなくて実現できず、今たまたま何かの間違えで裁量権のあるイスに座ることができただけのアホが取り敢えず何か口出ししてみたくてやらかす類のゴミ以下の半端仕事でマジで誰も得してなくてセンス最悪0点)
まあ、クライアントワークなので、こういうことが起きて今さら作曲家ヅラしてゴネ始めてもどうにもできないし、荒んでいても自分が時間を損するだけなので、気分転換に山に登ることにした。
インターネットで西武線、霊山と検索すると御岳山というのが出てきたのでそこに行った。
ハードな登山を期待していたのだけど、家族連れやカップルが週末に訪れるような、まあ高尾山みたいな感じの山で、道程を少しでもハードにするために朝から断食もしていたのだけど、あっさり頂上についてしまった。
でも、山頂の御岳神社付近はちょっとした仲見世通りになっていて、あるお土産物屋を通りすぎようとした時、なんとなく店内が気になったので入ってみた。
店には木彫りの熊やら仏像やら茶碗やらノボリやら、まあ、お土産物屋にあるようなものが一通り置いてあるようなお店で、商品の半分くらいは埃をかぶっていた。
その時、店内で流れていたラジオに、聞き覚えのある知人の名を聞いた気がした。ラジオでたまに曲が流れるような知り合いはいるけど、その名は失礼ながら、土曜夕方時のFM放送とは意外な取り合わせだったので、気のせいかと思いつつ耳を澄ませていると、確かにラジオから聞き覚えのある歌声が流れてきたのだった。とても驚いた。
それは、ある女性歌手がFMラジオで行った公開収録のゲスト出演というかたちで彼がギターを弾いて一曲歌うというコーナーのようだった。普段殆どラジオを聞くことのない自分が、たまたま気まぐれで登ってみた御岳山の、たまたま入ったお土産物屋の店内で彼のライヴを耳にするというのは、一体どういう巡りあわせなのだろうと思った。上に書いた経緯で結構落ち込んで、イラついているタイミングだったので、運命を深読みするなら色々深読みできそうな出来事だった。しかし、何かしら意味づけて気分の足しにするのが何だか薄っぺらい感じがしたので、とりあえず何も考えなかった。
ただ、そういう偶然が起きる事自体でちょっと救われた気はしていた。もともと何でもいいからそういう奇妙な事が起きれば、少しは救われるような気がしていたから山に来たのだった。
往路は平坦すぎたので、復路は日の出山を通って、奥の院を経由して二俣尾駅に抜けていく、少しだけ険しそうなコースをとることにした。
もう遅い時間だったこともあって、山道には全くと言っていいほど人の姿が無く(結局下山するまで大学生の集団一組にしかすれ違わなかった。)、ある地点を過ぎてから、赤字で「クマ注意」「クマ目撃情報多数」という看板が目立つようになってきて、恐ろしくなってきた。自分はこんな誰もいないような山の中で何をやっているのだろうと思った。まだ真っ暗ではなかったが、確実に日も落ちてきていて、そこらの岩陰や、草むらに熊が潜んでいるような気がしてきた。
熊が嫌がるという鈴もラジオも持ってなかったので、とりあえず手に高く掲げたipodのスピーカーからマイケル・ジャクソンを最大音量で流しながら山道を急いだが、途中で何だか恥ずかしくなってきた。マイケル・ジャクソンをスピーカーから流しながら全力で下山している自分は、何だか危ないんじゃないかと思い始めた。何でこんなことになってしまったんだろうと思った。それから、マイケル・ジャクソンは何となく熊が好みそうな音楽のような気がしてきた。(これは静かな深い山中で初めて直感できる事だと思う)
それで、自分が思いついたことは、例の半分ボツになった曲を流しながら下山することだった。元々壮大で少し実験的なものをということだったので、チューブラー・ベルやら、FM系のマリンバやら、ベル系の音色をたくさん使った曲だったのである。また、今後フルで発表されることのないこの曲への供養的な意味合いもあった。
で、めでたく熊に会わずに山を下りることができたのだった。
電車に乗る前に、山の入り口付近のセブンイレブンで酒を買ったら「明日もお仕事ですか、頑張ってください。頑張る人は救われます」とおじさんに言われた。
熊に食われずまだ生きていられるのは、この曲を作ったからだと思うことにした。
終わり