Dangerous Mind

Dangerous Mind

バンド名について

バンド名について
俺はこんなもんじゃない」というバンド名の由来を人によく尋ねられるのですが、自分でもどう答えるべきなのか、いまだによくわかっていません。
このバンドを始めた頃、自分は20歳そこそこで、大抵のそれくらいの年齢の人たちと同じようにひねくれていて、人がやっていることを当たり前のように自分もやるのが嫌いで、バンドはバンドだし音楽は音楽なんだから名前なんか無くていいじゃん別に、と思っていました。しかし、その考え方は傲慢というもので、まず現実的に名前がないまま「あのバンド」だとか「僕がやっているバンド」だとか、バンドのことを呼び続けるというのは自分たちですら非常に煩わしく、まして他人にとっては名前がないという事は存在していないという事にほぼ等しい、ということに遅まきながら気が付き、では「名前」をつけようということになりました。
それで、当時のメンバーでデニーズに集まって候補を出し合ったりしたのですが、なかなか良いアイデアは出ませんでした。
ここで気づいたのは、名前なんかどうでもいい、と本当に思っているのなら、アイデアの良し悪しなんか気にせずに一番最初に挙がった候補が採用されるはずで、要するにそれは、バンド名というものに対して自分は実はとても強いこだわりを持っていて、それだけに名付けられないだけなのではないか、ということでした。
でもそのまま月日は過ぎていきました。
当時、我々は御茶ノ水にある音楽スタジオで毎週水曜日の朝10時〜昼1時という、かなり世間の常識から外れた時間帯にリハーサルをしていました。そのスタジオの壁には様々なポスターや各部屋の料金表などと一緒に、バンドメンバー募集のチラシというものが何枚か貼られていました。ある日、何の気もなしにそれらを眺めていると、ひときわ粗雑で薄汚れたチラシが目に飛び込んできました。
俺はこんなもんじゃないと思っているドラムヤロー、求む」
そこには油性マジックでそう大書されていました。チラシの下の方の連絡先はまだ誰にも破り取られておらず、しかし、乾燥して左下の方からめくれあがってきていたその紙は、ずいぶん昔からそこに貼られているもののように見えました。
その時は、なんだか汚いチラシだなあ、と思っただけだったのですが、何日か経つとその紙のことが非常に気になってきました。「俺はこんなもんじゃない」というフレーズは、おそらくその2001年当時、日本語としてはもっとも周縁部分に追いやられていた語句のひとつだったのではないかと思います(今も多分そうですが)。そして「ドラムヤロー」という単語との組み合わせがまた衝撃的でした。このチラシの主の元には、一体どういうヤバいドラマーからコンタクトが訪れて、どんなヤバいバンドが結成されるのだろう、そして彼らはどんなヤバイ音楽を演奏するのだろう、と空想は広がりました。
当時我々はあやふやながらも、映画音楽のような、または映画のような音楽を創るということを目標にしていました。そして、バンド名がうまく思いつけず、その名を持たぬまま活動していました。そんな時、偶然こんな風にして出会った「俺はこんなもんじゃない」という言葉はそのインパクトとともに、独特の妙なひっかかりを持ったものであるように感じられました。
そして、それはつまり我々のバンド名は「俺はこんなもんじゃない」である、という事なのではないか、という気がしてきたのです。そこに明白な「理由」と呼ぶべきものは存在しませんが、事実の経過を記せば、大体そういう感じの事がこのバンド(と、我々の頭の中)に起きたわけです。
その後、バンドの音楽性が固まっていくにしたがって、「俺はこんなもんじゃない」という名前は、実際に演奏している音楽とどんどん関係なくなっていきました。我々は時々「水中、それは苦しい」みたいな感じのバンドだと勘違いされる事がありますが、お聴きになればわかるように、両者の音楽は全然似ていません。
途中、「OWKMJ(ちなみにこれはcal lyallが考えた略称)」に名称を変えようという動きもありましたが、メンバーみな「OWKMJ」の読み方がわからず、相変わらず「俺はこんなもんじゃない」なり「俺こん」なり、呼んでいたので、新しいアルバムの情報を小売店や媒体に流すにあたって、バンド名は「俺はこんなもんじゃない」、ニューアルバムのタイトルは「OWKMJ」という事で統一しました。しかし、個人的にはバンド名が「OWKMJ」でタイトルが「俺はこんなもんじゃない」でも良いと思っています。その辺はフレキシブルに捉えていただけたらと思います。そういう考え方は世間ではイレギュラーなものなのかもしれませんけど、よろしくお願いします。
しかし、これだけ本人達にもやってる音楽との違和感がありながらも、結局そう名乗り続けてしまうということは、結局のところ、我々の音楽活動は自分たちのあずかり知らない領域でどうしようもなく「俺はこんなもんじゃない」という名の元に行われるべきものである、と決定されているということなのかもしれません。
なのでおそらく今後も我々はこの名称を名乗り続けていくことでしょう。
P.S.
2001年冬〜2002年春頃、御茶ノ水の音楽スタジオ「音楽館DEUX O」に「俺はこんなもんじゃないと思っているドラマー募集」というメンバー募集チラシを貼った方、もしここを見る事がありましたらぜひご連絡ください。CDをお送りしたいと思います。