Dangerous Mind

Dangerous Mind

東京大学駒場で一週間続きのジャズの無料ライヴをやっていてその二日目、デレク・ベイリ−・トリビュート的な企画内容の日を見に行った。会場は人がいっぱいで入れないかなーと思っていたけど何とかなって、アンダース・エドストローム監督がデレク・ベイリ−を題材に撮った映画を見ることができた。これが本当に素晴らしい内容で、デレク・ベイリ−の事なんて殆どその名前しか知らなかったような俺でも、彼の意図や業績をいくらか理解できるような、そんな作品だった。いかにして物語的でない時間の流れに強度を持たせるのか、という課題に対する「こたえ」をデレク・ベイリ−の音楽のやり方を映像に応用したやり方で模索していて、愛情に溢れたトリビュートだと思った。
映画に感激して、多少浮ついた気分で帰りの電車に乗るのだが、同じ車両に居合わせた男二人組の「何なのあの映画わけわかんない、超つまんねー」とか言う会話が聞こえてきて、少し悲しくなる。そしてその二人組の片方は(そのライヴは他に大友良英ジム・オルークが出演していたのだけど)「俺オオトモの時、超前いっちゃったよ」とか言ってて、その呼び捨てっぷりが野球選手とか芸能人に対する呼び捨てとは微妙にニュアンスが違ってて、何か知人を擬するようなイヤな感じの親しみがこもった響きがあり、不快だった。
何の世界でもそうなんだろうけど、特に音楽界は地方の不良の世界と同じで、知らない事や知らない人についてでも知ってるフリをして自分を少しでも大きくみせようとするマッチョな風潮が根強いように思う。自分自身そういう悪習に冒されている時がたまにあるので気を付けようと思っている。知ったかぶった演奏、楽しんでるフリの演奏、エラそうな演奏だけはしたくない。知ってて、楽しんでて、はっきりとエラい演奏をいつかしたいと願っている。そのために今の自分を誤魔化してはいけないと思っている。あの二人組を見ていると、自分のダメな部分を見ているようでとても苦痛だった。そして最後にはいつの間にか彼らに共感していて俺もがんばるからあんたらもがんばってくれと、思った(勿論心の中で)。電車は渋谷に着いた。